バンコクには、有名な廃墟が2つある。
1つは、先日<おまけ>で紹介した、魚が大量に住んでいた「New World Mall」。
そしてもう1つが、「Sathorn Unique Tower」(サトーンユニークタワー)である。
49階建ての廃墟ビル。元々1990年代、高級分譲マンションとして建設が開始されるも、1997年のアジア通貨危機の煽りでデベロッパーが倒産、建設途中のまま放置されてしまったそう。駅の真ん前で好立地なのに、こんな廃ビルを堂々と放置し続けるバンコクもなかなかすごいわ。日本ではこんなの有り得ない。
日本のサイトをいろいろと見てみると、もう今は閉鎖されていて入れない、「侵入禁止、逮捕するよ」と記載された看板があった、という情報のみであった。
しかし。
どうやら賄賂を渡せば入れる。という噂も少しゲット。金額は500バーツ(1700円くらい)とか何とか。
というわけで、ヒロくんを巻き込んで、周辺に行ってみることにしました。今思えばよく付いてきてくれたよ…
数年前は、「入るな」と看板に書いてありながら、フェンスはちゃちく、穴が空いていて、人が出入りし浮浪者が住み着きまくり、ヤンキー的な人達がたむろしていて無法地帯だった様ですが、今はもう整備されて誰もいない、という記事を読んでいたのに…
…異臭がする。周辺住民がゴミを捨てているのか…?
そして高いフェンスの向こう側から、結構な音量で音楽が鳴っている。
…人がいる。あちこち周辺を歩き回り、塀の隙間を探したり、敷地内に繋がっているお店の人にお願いしてみたり、いろいろやってみるも、高いフェンスを越えられるポイントらしきものもない。
うーん、入れたらラッキー位に思っていたが、人がいるなら、中に入るにもかなりリスクが…と思っていたら、フェンスの切れ目が開いて、白人男性が、タワー内に住んでいるらしい浮浪者のタイ人男性と共に外に出てきた。
あ、私みたいなのがいた。
フランス人のスタン。20代後半。彼もこのタワーに登りたくてやってきたらしい。中にいる、浮浪者のおじさんと交渉するも、どうやら100バーツで敷地内の地上から写真を撮ることしかできない。上に登るには鍵が必要だが、おじさんはその鍵を持っておらず、別の人間が持っているという。その人は、明日の夕方6時以降なら戻ってくると。このおじさんは入り口の鍵を持っているだけの門番なのだ。
というか、このおじさんも何でここに住めてるんだろうか…
※横にある駐車場 こちらも廃墟
スタンに聞くと、欧米ではこのタワーは通称「ゴーストタワー」(Ghost tower)と呼ばれ、若めのツーリストDQN達が登っており、インスタグラムでガンガン写真を投稿している。「3日前に登ってる奴がいるんだ。だからきっと登れる。」
まじか。全然知らなかった。そしてなんなんだこのダンジョン感。
スタンが、明日もう一度来てみる!というので、翌日夕方6時に再びこの路地で会う約束をして、この日は100バーツ渡して中に入らせてもらい、地上から撮影しました。
綺麗だな…
中の落書きがすごい…
登りたいよう
翌日夕方、スタンと再び合流。彼はタイ人の女友達、シャリリーを、交渉人として連れてきていた。「ここに来るの初めてなんだけど。よろしくね!」とのこと。
すごいな。スタンの本気度が違うわ。しかしながら可愛い子だな。3年前アプリで知り合ったらしい。今はこういうことをするのも出会い系を利用する時代なのか…
こんな可愛い子がこんな所に来て大丈夫なのか…?と思っていたが、シャリリーはフェンスをいきなりゴンゴンぶっ叩き「ニイハオーーーー!!」と叫ぶ。そして反応がないと見るや、そこそこの大きさの石を拾い上げ、中に向かって放り込む。ゴドンッとすごい音がする。
うええええええ そんなことするん!?大丈夫なの?!と3人でびっくりしていると、昨日の浮浪者のおじさんが石を外にゴロン、と出して、顔も出してくれた。中にいて頭に当たったりしたらどうすんだよ…
シャリリーがタイ語で交渉開始。
しかしながら、この時点でまだ上に登る鍵を持っている人は来ていないらしい。
スタン「金なら払う。500って聞いてる。帰って来るまで一晩中待つ!!」
最早このタワーに登るためにバンコクに来たくらいの勢いである。
そしてシャリリーが言うには、なんと、昨日私達が入るのを断られたお店の人達はスパイで、実はオーナーに電話して鍵を開ける権限を持っているらしい。うわ!キタ!!隠しイベント発生!!
規模は比較にならないけども、スパイとかリアルに聞くの初めてだわ、とワクワクしていたが、今日はそれもダメ。
…どうやら2日前、誰か人が死んだと。
えっっっ なにそれ?どういうこと?
と思いながらも、残念な英語力のために詳細が理解できない。
となると、スタンがインスタグラムで見た人の後に、誰かわからないがここで誰か亡くなったのだろうか?
タワーの奥にある建物の大家さんらしきおばさんに試しに交渉してみるも、ウチの裏は塀が高いから、こないだ落っこちた人いるしここから入るのはやめた方がいいよ、どっちみち鍵がないと上に行けないもの、と言われた。周辺住民慣れてるな。警察に通報するという概念がないのか?お金絡んでるのかな?
再び石を投げ込み、シャリリーが浮浪者のおじさんと話し合い開始。
談笑とかして、結構いい感じの雰囲気になっているのだが…
「俺だってもちろん金は欲しい。でも上に行く鍵がないんだ。だから金は受け取れない。」
真面目だな…騙すとかチョロまかすとか考えないんだな…タイ人いい人だな…
それでも粘るスタン。困り果てるシャリリー。ひたすら話し合いは平行線。
「無理なものは無理なんだ。あんまり騒いでると警察が来て牢屋にブチ込まれるぞ。」
…このおじさんの言葉が決め手となり、我々はとうとう引き下がることにしました。
おじさん「高いところに登りたいなら、Sky Barに行ったらいい。」
…その30分後、我々4人は64階建ての高層にある超絶オシャレなバーにいた。
Sky Bar
多分高層階のバー等お好きな方々には有名な場所。夜風を感じながら、ゆったりとソファで寛ぎつつ、お酒を楽しむバーである。お通しはピスタチオとオリーブ。ジュース1杯350バーツ(1200円位)とかする、高所得者層しか来ないような場所。ドレスコードもあり、ハーフパンツを履いていたスタンは、仕方なく黒いパンツを買っていた。
夜景がとても綺麗。
バンコクは明るい。
なんなんださっきとの落差は。こうも世界は違うのか。
でも。
一番高い場所からの夜景や、綺麗でオシャレな空間、贅沢なサービス、美味しいドリンクは今はいらないから、私たちは500バーツ払ってでも、自分の足で登った廃墟タワーからの景色が見たかった。
私は英語がなかなか上手く話せず、コミュニケーションがおぼつかないことも多かったけど、その点でスタンとは気持ちが通い合っていたと思う。
スタン「正直、見たい景色とは違っちゃったけど…でも楽しかったよ」
Sky Barから見れたんだからいいじゃんという人は、登山する人に、富士山からの朝日を、ヘリで見ればいいじゃんと言うようなもんです。
こんな所まで付き合ってくれて、シャリリーよ、どうもありがとう。
めっちゃ広告に使っているので、ちゃっかりしているバンコク。iPhone7て。
憧れのタワーを上から撮影。切ない。
夜、宿のスタッフのMYOさん(ミャンマー人。多分ゲイ)に、「今日サトーンユニークタワーにトライしたけどダメだったんだよ」と話したら、「また行ってみたら?楽しいと思うよ!次は登れるといいね!」とサラッと言われた。タイの人々の止めなさっぷりに笑う。
また、このタワー、「ハングオーバー」という映画の撮影にも使われたらしく、その影響で世界的知名度がアップしているそうです。
<行き方>
バンコクの電車「BTS」の「SAPHAN TAKSIN」駅を目指していると、巨大なので見える。駅を降りたらタワー目指して行けば、近場まで何となく辿り着ける。
あとは、入って上に登れるかどうかは本当に何を差し置いても運。可能ならばタイ人同行だとよりスムーズだと思います。そして、登れたとして、怪我しても警察に捕まってもヘタこいて死んじゃっても自己責任です…オススメはしないでおきます。